骨吸収から骨形成へのカップリング因子の同定を目指す!

国立長寿医療センター研究所
運動器疾患研究部 関節疾患研究室室長
名古屋市立大学大学院薬学研究科
加齢病態制御分野客員准教授(兼任)
竹下 淳 室長
Sunao Takeshita, Ph.D.

骨粗鬆症とは、破骨細胞による骨吸収(骨を溶かして壊すこと)と、骨芽細胞による骨形成のバランスが崩れることによって引き起こされる病気です。

破骨細胞は骨を壊すために多くのエネルギーを必要とし、エネルギーの源となるミトコンドリアも数多く存在することが知られています。しかしながら、破骨細胞におけるミトコンドリアの生成機構などは分かっていませんでした。2009年3月に掲載されたNature Medicineの中で竹下先生らは、破骨細胞の分化を研究する過程でCREBを介したPGC-1βの活性化と鉄の取り込みが、ミトコンドリアの生合成と破骨細胞の分化に深く関わっていることを明らかにされました。この研究の中で、破骨細胞の骨吸収活性を正確に測定するために、RepCell®が用いられました。RepCell®を使うことによって、得られるメリットやそこに至るまでの経緯、そして将来の夢についてお話を伺いました。

成熟破骨細胞のみをダメージを与えず回収したい

温度応答性細胞培養皿RepCell®に興味を持たれたきっかけを教えてください。

竹下室長(以下省略):破骨細胞は多核で大体数十個の単核細胞が融合して分化・成熟しますが、非常に接着性が高いのでプレート上で作製すると剥がす際に殆どが死んでしまいます。そこで一般的にはコラーゲンゲルを使う場合が多いのですが、余り効率が良くありませんでした。

私は独自に、マクロファージから単核のプレ破骨細胞までプレート上で分化させ、殆どダメージなく剥がしたものを回収し、この細胞を非常に細胞濃度の濃い状態で象牙片の上に播いて2〜3日後に骨吸収の活性を調べるという方法を開発しました。これはNature Medicine (Takeshita et al., 2002 8:943-949)の図4の結果に掲載しています。このときから成熟破骨細胞のみを回収できる方法を探していました。それがRepCell®でした。

従来の方法(図1参照)では、プレ破骨細胞の状態で細胞を回収するため、細胞融合の影響を受けた骨の吸収活性を見ることになり、結果の解釈が容易ではありませんでした。また、細胞融合が起きないとその後の吸収は起こらないため、ダメージを与えずに回収することもポイントでした。RepCell®を用いる方法(図2参照)では成熟破骨細胞のみを、しかもダメージを与えずに回収することができるため、骨吸収活性をより正確に測ることができました。

ご使用された感想はいかがでしたか?

2度3度と使っているうちに結構大きい破骨細胞をダメージなく回収できたのでこれは使えるなと実感しました。

キーワードは「細胞播種数」「培養日数」「細胞剥離時の温度と処理時間」

2度3度ということは、試行錯誤されたのですね。

そうですね。至適条件を探して、細胞播種数を増やしたり、培養日数をのばしたりしました。細胞を剥がすときも、室温では剥がれにくく感じたので、細胞を剥がす際の温度や処理時間の長さも調整して試しました。その結果、4℃で短時間処理が最適だということがわかりました。

そして、この論文中では実際に骨吸収活性を調べる為に、RepCell®がもちいられていますね。RepCell®を用いて調製した成熟破骨細胞をご使用してみて、いかがでしたか?

いままでは細胞融合の影響も含めた吸収活性をみていた(図1参照)のですが、RepCell®を用いることによって、成熟破骨細胞のみをダメージなく回収することができました。それによって、成熟していない破骨細胞の影響を受けることなく、正確な吸収活性のみを測定することができたと思います(図2参照)。

この論文中では、骨を吸収するところにトランスフェリンが関与するかどうかを調べました。その実験で、トランスフェリンを加えるとより強く吸収し、逆に鉄をキレートすると吸収しないことを証明できました。

そして、最終的にはこれまでよく分かっていなかった破骨細胞におけるミトコンドリアの生合成系にCREBを介したPGC-1βの活性化が関与すること、トランスフェリンレセプターの発現上昇により鉄イオンの取り込みが起こり、ミトコンドリアが増加し、骨吸収に寄与するという一連のメカニズムが解明できました。

細胞シートの回収(従来の方法)細胞シートの回収(RepCell を用いる方法)

RepCell®は骨吸収活性を定量する実験に有用

今後は、RepCell®を用いてどのような研究を想定されていますか?

破骨細胞は最終分化した細胞で、骨を吸収することに特化した機能を持った唯一の細胞です。多核で非常に大きくなり取り扱いが難しく直ぐ死んでしまうので、骨吸収時に何が起こっているのかよく分かっていません。例えば、吸収した骨の残骸は破骨細胞の内部を通過して細胞外に放出されるという研究報告がありますが、実際には詳しくは分かっていません。

RepCell®を使えば大量に細胞を調製出来ますので生化学的な実験が可能だと思います。また、これまでに骨吸収を抑制する薬剤は研究されてきましたが、いずれも成熟破骨細胞を用いた例は極めて少ないと思います。実際の薬効・薬理を調べるにはRepCell®を使えばさらに詳細に解析できると期待しています。

新規骨粗鬆症の治療薬の開発を目指して

先生の将来の夢を教えてください。

骨は吸収と形成により常に新しい骨へと置き換わることにより想像以上にダイナミックに代謝されています。この過程をリモデリングといい、吸収から形成は共役(カップリング)しているために骨量は一定に保たれていますが、その詳細なメカニズムは分かっていません。

私たちは、現在、リモデリングを制御するカップリング因子の同定を目指して研究を行っています。将来的には骨吸収のトリガーになっているものを見つけ出すことによりこれまでにない新規骨粗鬆症の治療薬の開発につながるような研究をしたいと思っています。

RepCell®ユーザーに一言お願いします。

プレートの温度を変えるだけで骨吸収活性のある成熟多核破骨細胞をダメージなく回収出来るので骨吸収活性を測定するには使わない手はないと思います。

先生、お忙しいところありがとうございました!

ご感想、次回インタビューして欲しい先生のご希望がございましたら、こちらからご連絡ください。

竹下 淳 室長

竹下 淳 室長

プロフィール

1984年
宮崎大学大学院 農学研究科修士課程修了
1984-1994年
ヘキストジャパン株式会社
医薬総合研究所 基礎研究部 研究員
1987-1989年
京都大学 理学部生物物理学教室 研修員
1989年
京都大学 理学博士号取得
1994-1995年
三重大学 医学部 生体防御医学講座助手
1995-2000年
東京工業大学 生命理工学生命理学科助手
2000-2004年
米国ミズーリ州ワシントン大学 医学部
病理学教室 博士研究員
2004年-
国立長寿医療センター研究所
運動器疾患研究部 関節疾患研究室室長
2007年-
名古屋市立大学大学院 薬学研究科
加齢病態制御学分野客員准教授
現在に至る

参考文献

Ishii K., Fumoto T., Iwai K., Takeshita S., Ito M., Shimohata N., Aburatani H., Taketani S., Lelliott C.J., Vidal-Puig A. and Ikeda K. Coodination of PGC-1β and iron uptake in mitochondrial biogenesis and osteoclast activation. Nature Med 15, 259-266 (2009)